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見るだけで終わらない 考える博物館に

今年7月1日に、坂の上の雲ミュージアムの
新総館長に就任した菅 康弘さん。

前職のNHKでは、プロデューサーとして
スペシャルドラマ『坂の上の雲』をはじめとする
数々の作品を手掛けてこられました。

そこで今回、菅総館長に当ミュージアムの魅力や
今後のビジョンなどを伺ってきました。

松山に恩返しが出来たら

―最初に総館長就任の依頼が来たときの心境をお聞かせください

今治で生まれ、幼稚園から高校までを
松山で過ごしました。

その後、大学進学で上京しNHKに入社。
ドラマの制作現場に身を置く中で
『坂の上の雲』を担当することになり、
企画から完成まで約十年もの長期に渡り
携わらせてもらいました。

定年後は関連会社に移っていたのですが、
ドラマが縁となり、この度
「総館長」のお話をいただきました。
驚きましたが嬉しかったですね。
東京にいながらも故郷への思いが強かったので、
これを機会に「松山に恩返し出来たら」と思って
就任依頼をお引き受けしたのです。

ドラマの制作はゼロから作る面白さがあった

―ドラマ制作時の思い出を教えてください

映像化の話は、NHKがドラマ化するかなり前から
司馬遼太郎さんにしていたのですが、
ずっと断られていました。

小説の世界観と司馬さんの考えを
映像を通して再現しきれず
視聴者に誤解を与えてしまうのでは・・・
という懸念があったからです。

時を経てチャンスが到来します。
CGの技術が発達してきたことで、
期が熟しました。

連続ドラマでしっかり丁寧に描ききる。
セットだけでは再現が難しい場面には
惜しみ無く最先端のCG技術を投入する。

そうすることで、視聴者に正しく
作品の世界観や司馬さんの考え方、
そして明治を伝えられる。
そう提案できたことで、
司馬遼太郎記念財団から
了承をいただくことができました。

とはいえ、ここからがスタート。
明治の街並みはほとんど残っていないので、
当時の雰囲気を再現するのは大変な作業でした。

一つのシーンやカットを撮るにも、
明治時代に建てられた建物を軸に
周りはCGで再現。
全国のフィルムコミッションの力を借りながら
思い描いた場所を探し、国内のみならず
世界の様々な場所まで足を運びました。

特に印象に残っているのは、
アメリカでの秋山真之のシーンの撮影です。
公園で少年たちが野球をしている設定にしました。
実はこのシーンは、アメリカではなくイギリス。
ヨーロッパで撮影しています。

そこで問題となったのは、
イギリスに野球文化がないこと。
いざ野球をするシーンを撮影しようにも、
誰もキャッチボールができないんです。
これには参りましたね(笑)
子供たちとコミュニケーションをとりながら、
球の投げ方を教えたことも良い思い出です。

このように、
様々な場所での撮影ということもあり、
撮影は時系列通りには進みません。
一つのシーンを撮影するのに
数か月かかることもありました。
その間にも別のシーンを撮るので、
俳優の皆さんは気持ちを作るのが大変だったと
思います。

制作は本当に大変でしたが、
明治の時代をゼロから作っていく
という取り組みは最高に面白かったですね。

『へー』で終わる博物館にはしたくない

―坂の上の雲ミュージアムに話を戻します。ここは1つの小説をテーマにした博物館ということもあり、企画展など毎回テーマを決めるのは大変だと思うのですが・・・

うーん、そうかな・・・
実はそこにやりがいを感じています。
「限られた分野だからこそ、一つのことを
深堀りできるし、関連付けた企画もできる」
のではないかと思っています。

例えば、あえて全てを解説せず、
「どうして?」という視点を持って展示を
見てもらうのも面白いのではないかと
思っています。
見終わった後、気になることを調べてほしいし、
当時の時代背景を感じてほしいですね。

次の企画展ではそういう展示ができないかと、
学芸員の皆さんと話しています。
一方的に何かを教えられ、
見終わった後『へー』という感想しか
出てこない博物館にはしたくないですね。
今の目標はそこかな。

『坂の上の雲』には「その時々で新たな発見」がある

―最後にひとことお願いします

小説『坂の上の雲』の魅力は
年を重ねて読むたびに感情移入できる人物が
変わっていくところじゃないかと思います。

作中には1,000人近くの人物が登場します。
読み手の置かれている状況によって、
似た境遇にある人物に共感がもてる。
これが最大の魅力じゃないかな。

「その時々で新たな発見」があるので、
皆さんにはぜひ読み返してほしいと思います。
そしてまた、新たな視点を持って
ミュージアムを訪れてほしいです。

第16回企画展テーマ展示『坂の上の雲』完結50周年「明治日本のリアリズムー未来へ」

『坂の上の雲』完結50周年。
生まれたばかりの近代国家“明治日本”の人びとが
何を考え、どうふるまったかを
人物と出来事の両面から紹介しています。
(令和6年2月12日まで開催)

坂の上の雲ミュージアム 利用案内

開館時間

午前9時から午後6時30分まで
(入館は午後6時まで)

休館日

毎週月曜日(休日の場合は開館)

マップ

坂の上の雲ミュージアム公式HP

https://www.sakanouenokumomuseum.jp/

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