懐かしき松山。洋菓子ノスタルジー|(有)アンシャンテ
令和元年、自社ブランド「匠・松山カステラ」を立ち上げる
アンシャンテは、先代が43年前に松山でカステラづくりを始めたのが前身です。令和元年に自社ブランド「匠・松山カステラ」を立ち上げたのですが、それまでは、作ったカステラをOEM供給(製造した商品を、販売力のあるブランドに供給し販売する)という形で営業していました。
私は料理人として、イタリア料理や和食に従事していたのですが、今からちょうど20年前、先代から家業を継ぐことになり、カステラづくりの道に進んだのです。
誰もが美味しく食べられる最高のカステラを作ろう
先代から引き継いだ当初は、この先カステラ1つでやっていけるのか本当に不安でした。巷では毎年のように新しいスイーツが生まれ、流行ったかと思えば、いつの間にか消えていく。何か変えていかないと、引きついだ状態を維持するだけでは、うちも淘汰されてしまうのではないかという焦りもありました。
それでもこの家業を続けてこれたのは、昔ながらのお菓子を、誰もが食べたことがある味を大切にしたいという気持ちが強かったからです。だからこそ、誰もが美味しく食べられる最高のカステラを作ろうと、とにかく試行錯誤しました。
毎日トライアンドエラーを繰り返し、たどり着いたのが、今の匠・松山カステラのベースとなる味や食感です。
パティシエではなく料理人出身だからたどり着けた味
匠・松山カステラは、料理人時代に学んだ調理法による食材や調味料の成分変化に関する知識が役に立っています。もし私がパティシエ出身だったら、今の味にはたどり着かなかったかもしれません。
例えば、長崎カステラは一般的にザラメ糖を敷き詰めて焼成します。焼きあがって3~4日経つと食べ頃になるというのは、ザラメの保水力でカステラにしっとり感が出てくるためです。
しっとり感を強くすると食感が重たくなる。逆に軽い食感を重視するとカステラがパサつきやすい。ザラメ糖を使用せずにしっとり感を出しつつも食感を軽くする。これが匠・松山カステラが目指したところですが、実はこれが非常に難しく、マニュアル通りにはいきません。詳しくは話せませんが、その辺りに料理人の知識が活かされています。
カステラは何かを入れると簡単にくずれてしまう
他にも、ケーキのスポンジには一般的に起泡剤が使われますが、カステラは卵の力だけで浮かせます。何か風味をつけようと別の食材を混ぜるだけでも、簡単にバランスがくずれてしまい、浮かせることが困難になります。
カステラ作りは職人泣かせと言われるほど難しいお菓子で、色々な風味のカステラを作るためには、生地の比重バランスや泡のキメ、そして成分的な知識も必要になってきます。
現在、匠・松山カステラでは、ハニー、抹茶、塩、酒粕、メープルの5種類の風味を展開していますが、それぞれ生地のミキシング方法や焼き方が違います。
ちなみに、カステラは天気、気圧や温度でも焼き方が変わってきます。ですから同じ種類のカステラであっても、毎回窯の火の入れ方が違います。この辺りは技術に加えて職人の勘や感覚が頼りになってきます。なので焼成歴20年経った今も、まだまだ修行中ですね。
昔懐かしいカステラに、古き良き松山を感じてほしい
「匠・松山カステラ」は、インターネット注文だけでなく、市内の産直市や道後、空港などでも販売させてもらっています。お土産に手ごろなサイズということもあって、特に観光地で人気がありますが、私としては地元の皆さんに食べてもらいたいと思っているんです。
私は石井地区で生まれ育ちました。今でこそ住宅地となりましたが、子どもの頃は田んぼだらけで、家からでもお城がきれいに見えたんですよ。春には田んぼ一面にレンゲが咲き、そこにミツバチが蜜を集めにやってくる。今の松山では見られなくなった光景かもしれません。
匠・松山カステラは、数あるハチミツの中から、レンゲのハチミツを選びました。卵も新鮮な地場産を使用しています。昔懐かしいカステラの中に、古き良き松山を感じていただければと思います。